大判例

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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)2号 判決 1983年9月28日

控訴人(被告) 北海道営林局長 外一名

被控訴人(原告) 東井富男 外四六名

主文

原判決中被控訴人らに関する部分を取消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一  申立

(控訴人ら)

主文同旨の判決を求める。

(被控訴人ら)

本件控訴を棄却する旨の判決を求める。

二  主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

(一)  訂正

1  原判決三枚目裏二行目第三段に「三四九林班」とあるのを「三九四林班」と改める。

2  同六行目第四段に「待期」とあるのを「待機」と改める。

3  同四枚目裏一三行目第一段に「(29、34を除く)」を加え、同末行に「六六名」とあるのを「六五名」と改める。

4  同一一枚目表一一行目、及び同一二枚目裏八行目に「該たらない。」とあるのをそれぞれ「当たらない。」と改める。

5  同一四枚目表九行目に「全一日一〇日」とあるのを「全一日一〇回」と改める。

6  同一五枚目裏一三行目に「三四九林班土場」と、同一四行目に「いずれも」とあるのを各削除する。

7  同一九枚目表三行目に「(29を除く)」とあるのを「(29、34を除く)」と改める。

8  同一九枚目表九行目(二か所)及び二〇枚目表四行目にそれぞれ「山元工場」とあるのを「山元土場」と、同一九枚目表一二行目に「第二27」とあるのを「第一17」とそれぞれ改める。

9  同二一枚目裏三行目に「勤務条件決定等」とあるのを「勤務条件決定過程」と改める。

10  同二二枚目表六行目に「約二・五二八ヘクタール」とあるのを「約二五二八万ヘクタール」と改める。

11  同七行目から八行目にかけて「約七四八ヘクタール」とあるのを「約七四八万ヘクタール」と改める。

12  同二三枚目表九行目に「法令給与総額制」とあるのを「法令上給与総額制」と改める。

13  同裏九行目及び同二四枚目表一行目に「該たる」とあるのを、いずれも「当たる」と改める。

14  同二四枚目裏一〇行目に「該たらず」とあるのを「当たらず、」と改める。

(二)  付加主張

(被控訴人ら)

1 公労法一七条一項の違憲性

(1) 公務員の地位の特殊性

控訴人ら主張の「全体の奉仕者論」は、労働基本権が「生命権を基本理念とし、労働者に対して人間に値する生存権を保障する」ものであることが認識され、争議行為が国民生活とのかかわりで具体的に論ぜられるに及んで、既に否定されているものである。

(2) 公務員の職務の公共性

控訴人らの「国民全体の公共利益論」は、公務員の職種や争議行為の種類、規模、態様によつて国民全体の共同利益に与える影響は、相対的に変つてくるものであるから、それが及ぼす影響やおそれの程度に対応してとらえられる制約の根拠となり得ても、一律禁止の根拠となり得ないことは明らかである。そうして、本件においては、後記のとおり国民全体の利益にはなんらの影響も及ぼしてはいないのである。

(3) 公務員の勤務条件決定過程の特殊性

ア 控訴人らの「財政民主主議論」は、憲法の財政民主主議とは全く異なるものである。即ち、本来財政民主主義は労働基本権を含めた国民の権利を制限する法理とは異質なものである。

内閣が使用者として労働者たる公務員を管理し、その労働条件を決定し、公務員組合と交渉することは憲法上認められた固有の行政作用であつて、国会の委任によつて与えられた権限ではありえない。内閣は公務員関係の処理に当つては、法律の定める基準によるべきこととされるのみであつて、その限りで行政権の行使が制約されているが、内閣が国会から権限を付与されなければ処理しえないとするものではない。従つて、公務員組合が使用者たる内閣と団体交渉を行ない、また、政府に対してストライキを行うという労使関係は、行政府内部においても当然成立するのである。労使交渉の結果は、国会において自由に審議がなされるのであり、その結果、労使の決定が国会に認められないことも生じることは当然である。

以上のとおり、財政民主主義の原則は行政部内において労使による団体交渉に基づく勤務条件の共同決定を否定するものではなく、その共同決定の内容を国会がチエツクするものである。また、法律、条例で既に定められた勤務条件の変更については、国会の議決をまつて当該協定が発効するとの制限を加えることで調和をとることが可能であつて、団体交渉権、協約締結権、争議権を全面的に否定すべき理由はない。

イ なお、国有林野事業については、国家公務員法(以下国公法という)六三条一項、一般職の職員の給与に関する法律は適用されず、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下給特法という)が適用されることとなつているところ、右給特法四条、同法施行令二条は林野庁長官に給与準則を定めることを委任しているものの、現実には右給与準則は定められておらず、専ら労働組合との労働協約によつて定められているのである。

ウ さらに、定員外職員である作業員については、給与総額制がとられておらず、すべて労使の団体交渉、労働協約によつて決定されており、予算上の取扱いも国有林野事業特別会計予算の歳出の項である国有林野事業費のうち業務費(目)中の事業費から燃料代や部品代と同様、生産事業に必要な経費として位置づけられているにすぎないのである。

(4) 代償措置

控訴人らの「代償措置論」は、代償さえ与えれば人権の剥奪も極めて容易にできるというものであり、真にやむを得ない場合でなければ人権の制限はできないという思想とは大きな隔たりがある。

殊に、後述のとおり定員外職員については、国公法の定める身分保障は(懲戒規定を除いては)一切適用がなく、その地位の不安定性と処遇の低劣性は覆うべくもないのである。

2 本件懲戒処分の違憲性(憲法九八条二項)

(1) 憲法九八条二項は条約の遵守の義務を定めている。これは条約に反する法令の改廃の義務を定めるばかりでなく、現存の法令については条約に適合する解釈をなすべき義務をも負担していることを意味している。

(2) ILO九八号条約「団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約」第六条にいう「公務員」の範囲については、ILOの諸機関は英文テキストを解釈原理とし「国の行政に従事する公務員」との限定を付すべきものとの見解を示している。

そうすると、国の行政に従事しない公務員である現業の国家公務員を非現業国家公務員と同一に取扱うことは、右条約に反し憲法九八条二項に反するものといわなければならない。

3 裁量権の濫用

(1) 本件各処分の対象になつた事案は、昭和四五年四月三〇日全林野としてなした争議行為に関するものであるところ、当時は最高裁判所が東京中郵判決(41・10・26)及び都教組判決において示した労働基本権の保障とその制約に関する法理が大法廷判例として厳然と存在し、そのような社会観念が形成されていた状況のもとで、被控訴人らは、本件各行為は違法でないことを確信していたものである。従つて、本件行為が仮に違法としても、後記のとおりその程度が微弱なものとされる状況下において、控訴人らがあえて判例によつて形成された社会観念に反し、本件処分に出たことは、本件処分が「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合」に該当するものといわなければならない。

(2) そうして、本件処分が処分権の濫用であるかどうかを判断するに当つては、<a>公務員の労働基本権を尊重し、これが制限は必要最小限度にとどめるべきであり、<b>争議行為を原因とする懲戒と汚職や個人的な破廉恥行為等の非行を原因とする懲戒との本質的差異を明確にし、<c>争議行為を事由とする懲戒は、対立する一方当事者(指揮監督者)が同時に相手方当事者である組合側を処分することであるから、かかる場合、懲戒裁量を対立当事者の一方に任せれば適切な結果は到底期待できないこと、<d>さらに、懲戒処分による制裁が当該職員に終身の不利益をもたらすことを考慮すべきであり、懲戒権者に広い裁量権を認めることは、労使関係において当局側が正当活発な組合活動を嫌忌し、正当な要求を抑圧し、組合指導者を排除し、組織を破壊、弱体化するために利用される法理に堕するおそれが強い。

4 定員外職員の地位

定員外職員は、定員内職員と同様に常時勤務を要する作業に従事しているにも拘らず、行政機関の職員の定員に関する法律(以下定員法という。)との関連から非常勤職員として処遇されている。このため、国公法五九条に定める条件付任用期間、同法六〇条の臨時任用、同法七九条、八〇条の休職、同法一〇七、一〇八条の退職年金制度は、いずれも定員外職員には適用されない。同法九三条ないし九五条の公務傷病に対する補償の規定は適用されるものの、これは、私企業労働者についての労働基準法上の規定と同じであつて、格別の意味はなく、結局、定員外職員の労働条件が非現業の職員と同様の法律によつて定められているというのは、具体的には国公法の懲戒に関する規定だけが適用になるということを意味しているに過ぎない。

5 本件争議行為の影響

(1) 森林の再生産の長期性により林業は長期の計画をもつて事業の運営をはからねばならず、必然的に計画的運営が必要となるが、この計画自体、予算上あるいは収入上の理由等により年間三・四回の手直しをするのが普通のことであり、したがつて、予定と実行が少しでも食い違うと全体の計画に大きな狂いが生じ、取り返しがつかなくなるということはありえない。

(2) 被控訴人らの本件争議行為への参加は、苗畑構内及び山元土場における職場大会に参加する単純な職務不提供の態様で行なわれ、その間、暴力沙汰や、就労する他の職員に対する妨害等もなく、本件職場放棄の時間は平均二時間五分程度であり、また、参加者らは、全林野本部の中止命令を受けた後間もなく復帰し、作業にかかつたのであつて、林業の再生産に要するサイクルの長さという林業の科学的特質からみて、この程度の規模のストライキでは林野事業に影響がでることはありえない。

6 控訴人らの主張に対するその余の答弁

(1) 一の5ないし8、10並びに11の被控訴人らは、いずれも昭和四五年三月二・三日の札幌地本委員会及び四月二四日の戦術会議に出席したのみで、全林野本部による本件争議行為の指令の発出には勿論、恵庭分会を指定して突入することにも全く関与することなく、また、本件争議行為の体制確立のためにオルグ等の指導的行為に出たこともない。本件争議行為当日は、いずれもそれぞれの職場で勤務し、職務に専念していたものである。

(2) 一の1ないし11の被控訴人らが控訴人ら主張の別紙「被控訴人らの懲戒処分歴一覧表」記載のとおり、ストライキを指導し、もしくはこれに参加したとして処分を受けたことは認める。

(控訴人ら)

1 公務員に対する懲戒処分

(1) 公務員に対する懲戒処分は、公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする公務員の勤務関係の秩序を維持する見地から、職員に義務違反ないし非違行為があつた場合に、速やかにこれを行なつてその責任を明らかにし、その将来を戒しめるために科される制裁である。

本件被処分者らの非違行為は、公労法一七条一項で明確に禁止されているストライキという同盟罷業か、または、その企画指導としてのあおり、そそのかし行為であつたうえ、それら争議行為がなされる事前において、任命権者から争議行為をせぬよう警告され、かつ、当日においても職場大会を直ちに解散して職場につくように命令されていたにも拘らず、敢えて争議行為に及んだ事実は無視できない。

(2) 別紙第一目録のうち4を除くその余の一七名は定員法の適用を受ける農林事務官または農林技官であつたし、その余の者もいわゆる定員外職員と呼ばれているが、等しく政府に雇用されていたものであり、公共的企業経営を目的とし、永遠に倒産の不安のない政府に雇用されているその公務員としての地位にこそ正当な評価が下されねばならない。

2 本件処分の合憲性(憲法九八条二項)

ILO九八号条約六条にいう「公務員」の範囲については、同条約及びその他のILOの公式文書においては明確な定義は与えられていないばかりか、他の公式文書中には定員外職員といえども右「公務員」に該当すると解する余地のあるものもあり、右定員外職員が当然に右「公務員」に含まれないと解することはできない。

仮に、右条約が定員外職員に適用されるものであると解し得るとしても、これら職員を含む公共企業体等の職員に対しては、団体交渉権及び協約締結権を保障する措置をとつている(公労法八条、労組法一四条)のであるから、右九八号条約に違反することとはならない。

3 定員外職員の地位

(1) 定員外の常勤職員制度は、昭和二五年九月一二日付任審発第二六三号人事院事務総長通牒によつて設けられたもので、国有林野事業に従事する事務系統の大方の定員外職員はこの制度の適用を受けたが、現場に勤務する職員の大部分は同通牒ただし書に該当するものとして非常勤職員として取扱われてきた。しかして、この定員外職員はその作業の性格上恒常的即ち原則として一年以上継続して置く必要がある職とは認められないからにほかならない(なお、国有林野事業経営のため将来にわたつて確保する必要のある基幹的な要員については、行政機関職員定員令が適用されない常勤職員扱いとするとの基幹作業職員制度が昭和五二年一二月二七日発足している。)。

(2) 定員外職員と定員内職員との処遇上の差異は定員外職員の職務内容、雇用期間の長短等その雇用の実態の相違から生ずるものであつて、不当に差別したわけではない。即ち、公務員の処遇等について実定法上常勤職員のみを対象とするものも見受けられるが、これは林野庁限りでは如何ともし難いものである。しかしながら、かかる場合であつても、林野庁は公務員宿舎に準じて事業宿舎を設け定員外職員に貸与したほか、国家公務員退職手当法、国家公務員災害補償法、国家公務員共済組合法等の適用についても、でき得る限り意を用いて来たのである。

(3) 非常勤職員の任用については、国公法一六条、同付則一三条の規定に基づき特例として人事院規則八―一四が制定され、国有林野事業においても右人事院規則に基づいて非常勤職員の任用等を取扱つているものである。

(4) 給特法四条は、国有林野事業に従事する職員の給与について「……主務大臣又は政令の定めるところによりその委任を受けた者は……給与準則を定めなければならない。」とし、同法施行令二条で林野庁長官がその委任を受けることができる者として定められている。ところで、右給特法は、給与準則の形式については特に定めておらず、林野庁は、従前から定員内職員についてはもとより、定員外職員についても給与準則との名称こそ付してはいないが、給与関係の労働協約の実施等を主たる内容とする林野庁長官通達をもつて給与準則としており、これに基づいて給与を支給しているのである。

さらに、定員外職員の給与について林野庁長官が自主的に給与として定め得る範囲については、法律や予算による強い制約下にあり、林野庁が無制限の当事者能力をもつて協議決定できるものではないから、定員外の職員の賃金については単に予算上、科目などで明定しないことの故をもつて林野庁が自由に労働組合と団体交渉を行ない、労働協約を締結し得るものではない。

4 本件懲戒処分の相当性

(1) 本件争議行為の目的

国有林野事業に従事する職員に争議行為を禁止することによる代償措置としての公的仲裁機関による解決は、過去十有余年に亘り適切に機能してきたのであるから、敢えてストライキに訴えねばならない必然性はなく、その経過からしてまさにスケジユールストであり、かつ、安保廃棄という政治的要求も掲げた広範な政治ストであつたというべきである。

(2) 一1ないし11の被控訴人らの懲戒処分歴

右の被控訴人らは、本件処分がなされる以前の昭和四〇年四月から昭和四四年一二月までの間において、別紙「被控訴人らの処分歴一覧表」に記載したとおりの処分を受けた前歴があるので、本件処分においては、これら過去において非違行為の故に処分を受けたにも拘らず、重ねて非違行為をなした事情も考慮されたのである。

(3) 本件争議行為当時の判例状況

本件争議行為当時、東京中郵事件及び都教組事件についての最高裁判所の大法廷判決が存在していたが、右両事件は直接的には現業公務員等の争議行為に対して、刑事責任を問われた場合の違法性阻却の限界を問題としたものであり、右のうち都教組事件判決は、「地方公務員のする争議行為については……当該職員を懲戒処分の対象者とし、またはその職員に民事責任等を負わせることはもとよりあり得べきことである」との判断も示していたのである。また、昭和四四年六月一七日東京地方裁判所は全逓労組の役員につき解雇処分の正当性を認容する旨の判決をなしていたのであるから、被控訴人らが本件争議行為が違法と判断されないとの期待を持つていたとは考えられない。

(4) 本件処分の内容

本件処分のうち減給処分の対象となつた合計一一名の者については、その減給は「俸給月額の一〇分の一」をそれぞれ五か月ないし一か月間減給するというものであつて、減給処分の中でも比較的軽微な処分にとどめられているといえるものであり、また、戒告に至つては懲戒処分として法定されているものの最下順位のもので、これ以下の軽い懲戒処分は存しないのであるから、これが酷にすぎ、著しく妥当を欠くものとは到底評することができない。

三  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も被控訴人由比輝雄の本訴請求は訴の利益があるものと解するものであるが、その理由は原判決理由一に説示のとおりであるから、これをここに引用する。

二  請求原因一1、2の事実は、一の17、二の1、3、5、8、10、13ないし17、22の被控訴人らについての作業場所、一の14、17の被控訴人らについての作業内容を除き当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると右作業場所及び作業内容はいずれも控訴人ら主張のとおりであると認められる。

三  二の被控訴人らが昭和四五年四月三〇日午前七時三〇分からその職務を放棄したこと、一の5ないし8、10、11の被控訴人らがいずれも昭和四五年三月二・三日の札幌地本委員会及び四月二四日の戦術会議に出席したものの、本件争議行為当日はそれぞれの職場で勤務していたことは当事者間に争いがない。

一の被控訴人らが控訴人ら主張の組合役員の地位にあり、右職務の放棄に際し控訴人ら主張二3(二)記載のとおりの役割を果したこと(前記争いのない事実を除く)、二の被控訴人らの職務放棄の態様、職務放棄の時間が控訴人ら主張二3(一)記載のとおりであることは、被控訴人らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

四  本件懲戒処分が請求原因二1記載のとおりなされたことは当事者間に争いがなく、その処分理由が控訴人ら主張三1、2記載のとおりであることは被控訴人らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

五  公共企業体等の職員につき争議行為を禁止した公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、既に最高裁判所の判例として確立されたものであるから(昭和四四年(あ)第二五七一号昭和五二年五月四日大法廷判決、刑集三一巻三号一八二頁、昭和五一年(行ツ)第七号昭和五三年七月一八日第三小法廷判決、民集三二巻五号一〇三〇頁、昭和五三年(オ)第八二八号昭和五六年四月九日第一小法廷判決、民集三五巻三号四七七頁)、当裁判所は右判例に従うのが相当であると考える。

本件におけるいわゆる定員外職員である作業員は、国公法一六条、同付則一三条の規定に基づき制定された人事院規則八―一四「非常勤職員等の任用に関する特例」により任用されたものであるから、定員内職員と同じく一般職の国家公務員と認められるのであつて、全証拠によるも公労法の適用を受くべき他の職員との間で、特に争議権を与えなければならぬ程の処遇上の差異も認められないから本件定員外職員について公労法一七条一項の適用を除外すべき理由はない。そうすると、本件争議行為による国民生活への影響の有無、程度如何は、処分の当否を判断するための一資料たるにとどまるものというべきである。

してみると、本件争議行為は、いずれも公労法一七条一項に違反するものであり、被控訴人らの行為は、控訴人ら主張三1、2記載の各法条に違反するので、掲記の各法条に該当するものとして懲戒処分を受けることを免れ得ないものである。

六  被控訴人ら主張のILO九八号条約第六条にいう「公務員」については、これを何ら限定せず「公務員一般」を指すものと解すべきことについては、既に最高裁判所の判例として確立されたものであるから(昭和四三年(あ)第二七八〇号昭和四八年四月二五日大法廷判決、刑集二七巻四号一頁、前掲昭和五二年五月四日大法廷判決)、当裁判所は右判例に従うのが相当と考える。よつて、右主張はこれを採用することができない。

七  そこで、被控訴人ら主張の「裁量権の濫用」の有無につき判断する。

1  裁判所が懲戒処分の適否を審査するに当つては、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第五二号昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決、民集三一巻七号一一〇一頁、前掲昭和五三年七月一八日第三小法廷判決)。

2  成立に争いのない甲第二七号証によると、本件争議は、昭和四五年のいわゆる春闘にかかわるもので、賃金の引上げ交渉の打開をはかるため計画されたものであることが認められるところ、本件争議行為の計画と実施について請求原因三3(一)ないし(三)記載の事実は当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第二七号証ないし第三四号証、原審における被控訴人東井富男、当審における被控訴人安藤昭夫の各本人尋問の結果によると、控訴人ら主張二2記載の事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。そうすると、一の5ないし8、10、11の被控訴人らもその主張の会議に出席したというにとどまらず、本件争議行為を企画して実行せしめたものというべきである。

また、原審における証人松浦信男の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第四五、第四六号証、第四七号証の二ないし七によると、本件争議行為については、事前に林野庁長官名及び恵庭営林署長名をもつてこれに参加しないように警告が発せられていてその趣旨は周知徹底されていたこと、争議行為当日も現地において担当官から参加者に対しこれが違法行為であるから直ちに業務に復帰するよう命令が発せられたにも拘らず、全林野本部からの中止指令を受けるまで争議行為を継続したものであることが認められ、これに反する証拠はない。

3  控訴人らが当審において主張した一1ないし11の被控訴人らの処分歴は当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第六六号証の二によると、同日の争議行為には全国一四の拠点において四七七名が参加したのに対し、停職一六名(四か月三名、一か月以上二か月未満一三名)、減給一二〇名(五か月一八名、三か月二〇名、二か月九名、一か月七三名、いずれも俸給月額の一〇分の一)、戒告四五四名の合計五九〇名の懲戒処分がなされたほか、訓告厳重注意五二名の処分がなされ、また、これに先立ち昭和四四年一一月一三日実施された拠点部分ストについても同年一二月二三日四七四名に対し懲戒処分(停職一五名、減給六二名、戒告三九七名)がなされたことが認められる。

4  以上認定の本件争議の背景、経緯、態様、被控訴人らの地位、役割、過去の処分歴及び他地区における処分状況等諸般の事情を考慮すると、本件争議行為が約二時間程度で中止されたこと及び本件争議行為当時被控訴人ら主張の判例が存在していたことを斟酌しても、他に特段の事情の認められない本件においては、本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を濫用したものとは到底認められない。

八  以上のとおりであるから、被控訴人らに対してなされた本件各懲戒処分には、被控訴人らが主張する違法理由は存在しないから、その取消を求める被控訴人らの請求はいずれも理由がないものといわなければならない。

よつて、被控訴人らの請求をいずれも認容した原判決は不当であるから、原判決中の被控訴人らに関する部分を取消して被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧田薫 吉本俊雄 和田丈夫)

第一目録

番号

住所

氏名

処分欄

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

札幌市豊平区平岸二条九丁目

札幌市西区琴似八軒八条西五丁目

札幌市白石区もみじ台南四丁目一

札幌市北区篠路町篠路二七一-二三

札幌市中央区南九条西二三丁目

白老郡白老町字白老四七

札幌市白石区本通一七丁目北五六四番地

恵庭市和光町四二三

芦別市北一条東一丁目一番地

札幌市北区篠路町篠路二五三-一八

白老郡白老町字白老

恵庭市文京町一一六

芦別市本町二八-四

千歳市青葉三丁目八

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

恵庭市緑町六一

東井富男

石川桝雄

松田隆夫

畑瀬利一

安藤昭夫

福田光雄

小玉敏雄

布田賢一

由比輝雄

渡部東司

佐々木栄一

鰐田義満

井藁茂

水島正幸

山口晋

井上光久

佐藤俊男

斉藤与志美

減給五ケ月

減給五ケ月

減給五ケ月

減給二ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給二ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

戒告

減給は、いずれも俸給月額の一〇分の一についてなされたものである。

第二目録

番号

住所

氏名

処分欄

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

恵庭市緑町一〇五

千歳市末広町東区一丁目

恵庭市大町二三二

恵庭市漁町二六五

恵庭市泉町二八

千歳市朝日町八丁目

恵庭市牧場二九

千歳市朝日町八丁目

千歳市蘭越一三

千歳市朝日町八丁目

佐藤義雄

赤川幸一郎

広田信行

林進一

天野芳光

田辺三郎

佐藤盛次

牧野友昭

小山田直美

高杉俊一

戒告

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

千歳市末広町東区二丁目

千歳市桂木六丁目

恵庭市有明町一二二

恵庭市有明町一二九

恵庭市大町二二一

恵庭市文京町四

恵庭市末広町一

恵庭市桜町七二

千歳市朝日町八丁目

千歳市桂木四丁目八

恵庭市戸磯二七四

恵庭市末広町四三

恵庭市柏木一〇

恵庭市福住町三七八

恵庭市相生町三四四

恵庭市大町二二七

恵庭市相生町三八六

恵庭市有明町九三

恵庭市有明町二四九

恵庭市有明町一〇八

恵庭市有明町一二七

恵庭市相生町三九三

恵庭市盤尻三四二

恵庭市大町八一

木村京二

小田忠男

加藤栄松

茨木新一

熊谷徳一

三浦清

古川四郎

河野和義

畑山亨

小畠常男

松尾清澄

今田香末

鳴海市太郎

井上正生

細谷健次郎

渡辺トメ子

山名シウ子

村上ミエ子

藤田ハナ

須藤トセ子

作本シマノ

熊野キミ

伊東テル

林すげ

戒告

37

38

39

40

41

42

43

44

45

46

47

48

49

恵庭市住吉町三五二

恵庭市柏木二六

恵庭市柏木一〇

恵庭市住吉町六五

恵庭市桜町七二

恵庭市駒場町三四五

恵庭市駒場町一〇八

恵庭市牧場四二五の一

恵庭市有明町三六八

恵庭市文京町六三

恵庭市白樺町七

恵庭市有明町七〇五

恵庭市文京町一一六

佐々木トシ子

鈴木タケ子

鈴木ミヨ

向川喜代子

藤平八重子

山平ミサヲ

中川国子

大浅幸江

志津節子

早坂ナミ

中村千代

佐藤千栄子

小林千佐子

戒告

以上

第三目録

被控訴人第一目録番号 処分当時の組合役職

1          地本 委員長

2          〃  副委員長

3          〃  書記長

4          〃  特別執行委員

5          〃  会計長

6~8、10、11  〃  執行委員

9          〃  書記次長

12         分会 委員長

別紙

○ 被控訴人らの懲戒処分歴一覧表

被控訴人番号

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

被控訴人氏名

東井富男

石川桝雄

松田隆夫

畑瀬利一

安藤昭夫

福田光雄

小玉敏雄

布田賢一

由比輝雄

渡部東司

佐々木栄一

ストライキ実施月日

目的

処分年月日

40・3・17

ILO87号批准・スト権奪還・最賃制確立

40・4・19

<指>戒告

40・4・23

賃上げ

40・6・11

<指>停職1月

<指>減給1月

<指>停職10日

<指>減給3月

<参>戒告

<参>戒告

<指>減給3月

<参>戒告

<指>減給1月

<指>減給3月

41・4・26

41・8・22

<指>停職15日

<指>停職10日

<指>停職3日

<指>減給1月

<指>戒告

<指>減給1月

44・11・13

首相訪米抗議・沖縄返還・振動病対策

44・12・23

<指>減給3月

<指>減給3月

<指>減給3月

<指>減給1月

<指>戒告

<指>戒告

<指>戒告

<指>戒告

<指>戒告

<指>戒告

<指>戒告

45・4・30

賃上げ安保廃棄

45・7・4

<指>減給5月

<指>減給5月

<指>減給5月

<指>減給2月

<指>減給1月

<指>減給1月

<指>減給1月

<指>減給1月

<指>減給2月

<指>減給1月

<指>減給1月

注 <指>は、地方本部又は分会の役員として指導若しくは自らも参加。

<参>は、単純参加。

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 被告北海道営林局長(昭和四五年七月五日当時札幌営林局長)が昭和四五年七月四日に別紙第一目録記載原告番号1ないし18の原告東井富男ら一八名に対して行なつた同目録処分欄記載の各懲戒処分は、いずれもこれを取消す。

二 被告恵庭営林署長が昭和四五年七月四日に別紙第二目録記載原告番号1ないし28、30ないし49の原告佐藤義雄ら四八名に対して行なつた同目録処分欄記載の各懲戒処分は、いずれもこれを取消す。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

主文同旨

(被告ら)

一 原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一 当事者

1 別紙第一目録記載の原告らは被告札幌営林局長に(その後北海道営林局長に変更以下被告営林局長という)、同第二目録記載の原告らは被告恵庭営林署長(以下被告営林署長という)に各任用され国有林野事業に従事し、同時に全林野労働組合(以下全林野という)に加入していた。そして右原告らの昭和四五年四月三〇日当時における職務内容は次表記載のとおりであつた。

原告番号

地位

作業場所

職務内容

第一目録

1~4、9

全林野札幌地方本部組合専従者

同5

札幌営林局

計画課測量審査係

同6

土木課事業第三係

同7

同事業第二係

同8

大夕張営林署

経理課契約係

同10

静内営林署

経営課収穫係

同11

白老営林署

同12

恵庭営林署

事業課生産係

同13

農林技官

千歳製品事業所恵庭事業区三四九林班四号土場

全幹材を運搬するトラクターの運転

同14

恵庭事業区三九二林班

貨物自動車で二六九林班へログローダを移動するための待期

同15

恵庭事業区二六九林班第一号土場

全幹材を運搬するT50トラクターの運転

同1617

恵庭事業区二六九林班

全幹材を運搬するトラクターの運転

同18

丸太を積み上げるペイローダーの運転

第二目録

1

常用作業員

恵庭事業区三九四林班

チエンソーによる伐倒と玉切の作業

同2

恵庭事業区二六九林班

同3

恵庭事業区三九四林班

同4

恵庭事業区二六九林班

同5

恵庭事業区三九四林班

トラクターの作業による荷掛・荷卸し

同67

恵庭事業区二六九林班

チエンソーによる伐倒と玉切の作業

同8

恵庭事業区三九四林班

同9

恵庭事業区二六九林班

同10

恵庭事業区三九四林班

トラクターの作業による荷掛・荷卸し

同11

チエンソーによる伐倒と玉切の作業

同12

恵庭事業区二六九林班

同1314

恵庭事業区三九四林班

チエンソーによる伐倒と玉切の作業

同15~17

トラクターの作業による荷掛・荷卸し

同18~21

恵庭事業区二六九林班

同22

恵庭事業区三九四林班

同23

恵庭事業区二六九林班

同24

恵庭事業区三九二林班

ログローダを移動する為の準備

同25

恵庭事業区四〇七林班

トラクターによるジヤリ採集作業の補助

同26~49

定期作業員

恵庭事業区一林班恵庭苗畑構内

日覆調節・除草及び追肥

(以上 六六名)

2 被告営林局長は別紙第一目録記載原告らの任免権者であり、被告営林署長は被告営林局長の命を受け国有林野事業を執行するもので別紙第二目録記載原告らの任免権者である。

二 本件懲戒処分

1 被告営林局長は昭和四五年七月四日第一目録記載の原告らに対し、また被告営林署長は右同日第二目録記載の原告らに対し、それぞれ右各目録の処分欄に記載のとおり減給あるいは戒告の各処分を行なつた。

2 その処分の理由とするところは、原告らは昭和四五年四月三〇日、一斉に職務を放棄しあるいは職務を放棄せしめたというものであつた。

三 本件争議行為

1 国有林労働者の身分と処遇

(一) 林野庁所属の職員は、「行政機関の職員の定員に関する法律」に基づくいわゆる定員内職員(約四万人)とこれ以外のいわゆる定員外職員(約三万六〇〇〇人)とに大別され、国有林野事業職員就業規則により、定員内職員は主として事務的、技術的職務を担当し、定員外職員は主として現場作業に従事している。そして定員外職員はその雇用される期間によつて区分され、年間継続して雇用される「常用作業員」と、年間六ケ月を超えて雇用される「定期作業員」それに年間六ケ月以下の期間雇用される「臨時作業員」とに分れている。

(二) しかして常用作業員は勿論のこと定期作業員といえどもその圧倒的多数はその勤続年数一〇年を超えており、国有林野事業における専業的かつ基幹的労働者といわねばならない。

しかしその実態に反し、制度としては、常用および定期作業員は局所的な事業の必要によつて雇用されるいわゆる臨時的雇用にすぎないとされており、常用作業員も二ケ月間雇用をその年度末まで更新していくことにより通年雇用となつているのである。そして定期作業員は毎年雇用、失業が反覆され、失業期間中は「失業者の退職手当」という名目の手切れ金で最低生活を余儀なくされている。

(三) その賃金や職場環境についてみるに、その賃金は同一労働態様にある月給制技能職者に較べ著しく低額であり、またその支払も定額日給あるいは出来高給であつて不安定な状態にある。また賃金のほか諸手当、年休等の諸権利については定員内職員と差別され、冷遇されている。そしてその作業環境は屋外作業を主とし、家族と別居して(山泊)作業に従事しあるいは遠距離の通勤を余儀なくされている。しかもその作業は近年の急速な省力化、機械化、要員未補充によつて労働が強化され、かつ重筋肉、長時間労働となつている。そのため労働災害は多発し、特に死亡、重傷災害が高率を示している。

2 処遇改善をめぐる交渉経過

(一) 国有林労働者の闘いは、定員内外職員の賃金大幅引上げと定員外職員に対する処遇改善、差別撤廃を中心として行なわれ、その結果林野庁との間で昭和四一年三月二五日「雇用安定等に関する議事録抄」(通称三・二五確認)と同年六月三〇日「雇用安定等について」(通称六・三〇確認)のいわゆる二確認がかわされた。この三・二五確認は「国有林経営の基本姿勢として、直営直傭を原則とし、これを積極的に拡大し、雇用の安定をはかることを前提とする」というものであり、六・三〇確認はその内容をより具体化し、国有林の現場労働者の雇用と処遇について「<1>失業、雇用の反覆状態にある従来のあり方を是正し、臨時的雇用制度を抜本的に改めること。<2>それまでの当面措置として、事業の通年化等をはかり常用化を積極的にすすめるとともに処遇の改善をはかること。<3>職場環境改善、厚生施設等の拡充をはかること。<4>これらの問題について、組合と十分協議し、意志の疎通をはかつてゆくこと。」というものであつた。

(二) しかし当局は右二確認の実施に誠意を示さず、昭和四二年度には定期作業員の常用化が僅かにすすめられたに止まつた。そこで全林野は更に闘争をすすめ、同四三年秋には機械要員の定員化と一七八五名の常用化が実現し、さらに当局との間で「<1>基幹要員については通年雇用する。<2>常勤性を付与する。<3>常勤性にふさわしい処遇にする。」との確認がかわされた。

(三) しかして昭和四四年度には約四三〇〇名の常用化しか実現せず、全林野は同年秋「<1>白ろう病絶滅。<2>臨時雇用制度の抜本改善。<3>月給制賃金体系の改善」等を要求し、中央段階での団体交渉を行なつた。交渉は当局が具体的対策を示さないままに進められたがようやく同年一二月六日、白ろう病に関し「<1>チエンソーの使用時間については一日二時間連続三日、月四〇時間を限度として下部で協議する。<2>白ろう病のため転職した者の収入二年間、実収入の八五%を保障する。」との処遇改善については「<1>祝日の有給化については四五年度実施の方向で努力する。<2>機械要員の定員化は昭和四四年度四〇〇名残りは四五年度当初に繰り入れる方向で努力する。<3>常勤性付与は四五年度実施をはかるべく今後全庁あげて努力する。<4>生理休暇の有給化は四五年一月中に考え方を示めす。」との回答がなされた。

(四) しかし昭和四五年になつて解決をみたのは機械要員の定員化実施のみであつた。当局の態度は、チエンソーの使用時間について下部段階の協議をすすめようとしなかつたし、また処遇改善について、昭和四五年度内の常勤性付与は見送る、祝日の有給化は困難であるが尚検討する、生理休暇の有給化は一日のみ格付賃金の六〇%を保障する。全員常用化は今までも進めてきている、とするものであつた。

3 本件争議行為の計画と実施

(一) 全林野は同年三月八日、九日の両日、中央委員会を開催し、当局の態度によつてはストライキで抗議することとして、同年三月二八日、四月三〇日、五月八日にストライキを行なう計画をたてた。

他方当局との交渉は続けられ、三月に入つてからは前記各要求に加えて月給制賃金体系の改定と大幅賃上げ(月給制で月額金一万三〇〇〇円、日給制日額金一一〇〇円)の要求が加えられた。

(二) 当局は同月二七日になつて「<1>常勤性付与については四六年度実施を目標にし七月に説明したい。その際、重大決意に取組む。尚、これについて、組合側から“基本姿勢の中に組合が要求した賃金をはじめ労働時間、休日、休暇、諸手当、厚生施設等一切の労働条件について常勤性にふさわしい改善の具体案を示すべき”と主張があり、当局は了承した。<2>祝日の有給化については、通年雇用者は全日有給化にふみきつたが、今年は予算上困難なので今後二年間で実施する。従つて四五年度は常用作業員七日、定期作業員三日とする。<3>山泊別居手当抜本改善とともに七月までに回答する。<4>生理休暇については引き続き協議する。<5>常用化について年齢規制は正しくない。下部を指導する。」との回答を示し、これを受けた全林野は今後も団体交渉を強化することとして、三月二八日に予定したストライキを回避した。

(三) 同年四月、当局と全林野はさらに交渉を続けた。当局は賃上げについて全く回答を示さないままに推移し、同月二七日になつてようやく昨年同額(月給制月額金四七七七円、日給制日額金二〇八円)の回答を示した。全林野は当局の再検討を求め、進展のないまま二八、二九日を経過した。そして当局は同月三〇日午前七時全林野に対し、ストライキ中止を条件として「民間の賃上げ動向を考慮する考えであり、組合側で調停申請の手続きがとられた場合は、その考え方に立つて実質的な解決が図られるよう対処する」と回答した。

(四) 全林野は、この回答について検討する一方、予定どおり四月三〇日、始業時から全国一四の地方本部、四七七名がストライキに突入した。また職場集会は、全国約二〇〇〇カ所、約三万名を越える組合員が参加して行われた。

この全林野統一行動に、全林野札幌地方本部恵庭営林署分会所属の原告らが正当な行為として、参加したものである。ストライキ突入は午前七時三〇分からである。

全林野は、当局の回答を約二時間にわたつて検討した結果<1>民間の賃上げ動向を配慮することを明確にしたこと<2>事実上調停決着の考え方を明らかにしたこと<3>日給制賃金についても右の考えで対処することを明らかにしたことなどの点を、かつての自主交渉での回答になかつたものと評価し、結局九時六分ストライキの解除を決め、指令した(その後五月一日調停を申請したが五月八日不調に終り、同日仲裁手続に移行し、五月一九日結果として月給制六八二六円、日給制二九七円の賃上げにとどまつた。)。

四 本件懲戒処分の違憲性、違法性

1 公共企業体労働関係法第一七条一項は憲法第二八条違反である。

(一) 労働基本権は、労働者にとつてその生存権確保のための唯一不可欠の権利であり、最大限に尊重さるべきものである。したがつて、他の人権との調整上労働基本権特に争議権を制限せざるを得ない場合であつてもその制限は必要やむを得ない限度にとどめ、かつこれに見合う適切な代償措置が講じられなければならない。

いわゆる三公社五現業の職員も憲法による労働者であるところ、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)第一七条一項は右職員を対象としてその争議行為を禁止している。しかし右職員の業務内容、性質は極めて多種多様であり、公共性の強いものから私企業のそれと同じものもあるのである。かかる業務の多様性や公共性の強弱を顧慮することなく、全ての職員について一切の争議行為を一律に禁ずることは必要やむを得ない限度をこえており、さらに公労法の定める代償措置は右禁止に見合つた適切のものといえない。従つて、同法第一七条一項は憲法第二八条に違反するものである。

(二) 法令解釈の原則として合憲解釈の原則が認められているが、それも法律を憲法に調和させて解釈しうる場合に適用があるのである。しかして公労法第一七条一項は、その文理上あるいは社会的歴史的にみても、明らかに一切の争議行為を禁じていると読む他はなく、制限解釈のうえ、合憲解釈の原則を容れる余地はない。

(三) また、公労法第一七条一項は、当初からいわゆる立法事実を欠き、あるいは少くとも今日においては立法事実は消滅してしまつたのであつて、もはやその違憲性は確定している。

2 国有林野労働者の争議行為は公労法第一七条一項の禁ずる争議行為に該たらない。

(一) 国有林野事業は、国有林野において林業を行なうところの企業活動に他ならず、それは国家固有の機能によるものでもなければまた公権的行政を行なうものでもない。従つて、国有林野事業が国民生活といかに関連するかということは、林業一般と国民生活との関連がどうかということと同義である。

(二) 昭和四四年における素材生産量に対する国有林生産量の割合は約二八・九パーセントであり、しかも国産材の占める比率は約五〇・三パーセントであつた。従つてわが国の木材需要の全体に占める割合からすると約一四パーセントにすぎないのである。しかも国有林における木材生産、販売はその六〇パーセントが立木のままの生産販売であるし、また製品化して販売を行なう場合においてもそのうち約二〇パーセントは民間業者の請負であるから、国有林労働者が直接生産しているのはさらに僅かなものである。

そうすると、わが国の木材需要において国有林野事業が占める割合は独占的なものではないし、しかもその生産業務のすべてが職員の手で行なわれているものではないから、争議行為による業務の一時的停滞が国民生活全体の利益を害することは考えられない。

(三) また国有林野の公益的機能(水源かん養、国土保全)についても、その植林計画から始まつて植林造林作業を行ない、その伐採期を迎えるまでには四〇ないし五〇年の長きを必要とするのであるから、このような長期にわたる生育過程に対し一時的な争議行為の影響を論議しても全く無意味である。

(四) 以上によると、国有林野事業における争議行為によりその業務の停廃があつたとしても、そのことが国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるものではないから、争議権を制限することはできない。

(五) また第二目録の原告らは国公法上の任用、分限、保障に関する規定の適用を受けず、処遇に関しても月給制職員に比しはるかに劣悪であり、自らの団結活動により処遇改善を図つて行く以外に方法がなく、争議権を制限することはできない。

3 本件争議行為は公労法第一七条一項の禁ずる争議行為に該たらない。

(一) 本件争議行為は国有林労働者の賃上げ、労働条件および処遇の改善を目的としたもので労働組合の目的の範囲内に属し、また暴力的行動は全くなく、単純な労務不提供である。

(二) またその争議行為は始業時から約二時間にすぎず、また国有林野事業の作業は相当な柔軟性があつて、結局業務阻害の程度は極めて軽微であつた。

(三) よつて本件争議行為に公労法第一七条一項を適用することはできないものである。

4 本件争議行為に国家公務員法第八二条(懲戒規定)を適用するのは違法である。

(一) 国家公務員法は、公務員の非行中、第八二条所定の行為に対し免職を含む不利益取扱を定めている。これは使用者としての国の利益を指揮命令権や職場秩序を維持することで保護しようとするものであり、「国民生活全体の利益」保護を目的としたものではない。

(二) しかし、公労法第一七条は「国民生活全体の利益」保護を目的として設けられたものであるから、その違反行為に対しその制度の趣旨を異にする国家公務員法第八二条を適用することはできない。公労法第一七条に反して「国民生活全体の利益」が害された場合に、法は同法第一八条の適用を予定しているのであつて、国家公務員法の適用を予定していないのである(そうでなければ、国家公務員法第九八条二、三項と同趣旨の内容である公労法第一七、一八条を規定する必要がない)。

(三) 国家公務員法第八二条の懲戒制度は、使用者の指揮命令権を確保し、職場秩序の維持を目的としたものであることは前述したとおりである。しかして争議行為は本来、使用者の指揮命令権を排除し、業務の正常な運営を阻害するものであるから、使用者の指揮命令権が初めから及ばない争議行為について指揮命令違反のあるはずがないのである。

(四) 以上、争議行為は懲戒処分の対象とならない。仮に、原告ら公労法適用公務員の争議行為に対し懲戒処分ができるとするならば、公労法適用公務員は国家公務員法八二条の懲戒処分に加えて公労法第一八条の解雇をも受けることになり、より労働者性の保障されている現業公務員の方が、非現業公務員よりも制裁を受ける種類が多いという不合理な結果となるのである。

5 処分権の濫用ないし不当労働行為

(一) 本件処分と最近の処分とを対比すると、その両者には質的な差異が認められる。というのは、昭和四九年春闘は全一日一〇日を含む一七波の争議行為を行なつたが単純参加者に対する処分は行なわれなかつたし、また昭和五〇年春闘は全一日三回を含む五波の争議行為を行ない、同年秋には六日間連続のスト権奪還のストライキを行なつたが、やはり単純参加者に対する処分はされていないのである。これに対し、本件争議はわずか二時間のストライキにすぎないのに、単純参加者の全員について、戒告処分がされているのであつて、その衡平を欠いている。

(二) また林野庁当局は組合の要求に対し誠意ある団体交渉をしなかつた。その詳細は請求原因第三項に記載したとおりである。当局は、四月二七日になつて初めて回答したが、その内容は客観状勢と離れたものであつたし、「民間の賃上げ動向を考慮する考えであり、組合側で調停申請の手続がとられた場合は、その考え方に立つて実質的な解決が図られるよう対処する」との非公式回答すら、ストライキ当日である四月三〇日の午前七時すぎに示されたのである。

従つて、本件争議行為はやむを得ないものであつたし、また当局は組合が本件争議行為に突入させるために誠意ある団体交渉を行なわなかつたと評価せざるを得ない。全林野としても右の非公式回答を検討し、ストライキ中止決定をするまで一時間余の時間を要するのは、組合民主々義の原則上当然である。

(三) (不当労働行為)

当局の右行為は、全林野労働組合をストライキに突入させたうえ、本来処分に値いしない単純参加者をも処分して、もつて組合弱体化を狙つたものという他はない。本件処分はまさに林野庁当局の不当労働行為意思に基づき為されたものであるから、労働組合法第七条各号に違背する不当労働行為として取消を免れないものである。

(四) (処分権の濫用ないし裁量権の逸脱)

国家公務員法第七四条は、懲戒が公正でなければならないとしているが、本件で当局は不誠実な団体交渉の態度をとつたこと右記のとおりであり、結局当局は本件処分においてクリーン・ハンドを有しないのである。

のみならず、本件争議行為の目的、態様、規模、実害のないこと、および原告らの多くは日給制作業員で出来高給をもつて働いていたものであること、その他右に述べた諸事情をも考慮すると、当局の本件処分は処分権の濫用ないし裁量権の逸脱があり、取消を免れないものである。

五 よつて原告らは被告らに対し、本件懲戒処分の各取消を求める。

(請求原因に対する被告らの認否、主張)

1 請求原因一1、2の事実は次の事実を除き認める。

原告らの作業場所欄に恵庭事業区三四九林班土場、三九四林班とあるのはいずれも恵庭事業区三九五林班の誤まりであり、また作業内容中第一目録記載14原告(以下「目録」を略す)、第一17原告の作業内容はトラクターの修理であり、第一17原告の作業場所は修理工場である。

2 第一9の原告(由比輝雄)は昭和四六年四月三日退職した。

3 同二1、2の事実は認める。

4 同三1(一)の事実は認める。

同1(二)の事実中、常用、定期作業員のうち多くの者の雇傭が事実上長期間続いていること、しかし制度上は臨時的雇傭とされていること、定期作業員は毎年雇用・失業が反覆され、失業期間中は失業者の退職手当名義で手当を受けていることは認めるが、その余は争う。

同三1(三)の事実中、常用、定期作業員の賃金が定額日給や出来高給として支払われていること、右作業員の諸手当、年休等の諸権利が定員内職員と差があることは認めるが、その余はすべて争う。

常用作業員は制度として有期雇用であるが必らず更新され実質的には期間の定めのない雇用であり、また定期作業員も毎年一定期間の雇傭であるが、期間満了により一旦退職しても翌年度には優先的に雇用を続ける建前で、いずれも安定した雇用状態にある。

また右作業員に対する賃金については「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」(以下給特法という)が適用され、一般職の国家公務員民間事業の従業員の賃金その他の事情を考慮し、公共企業体等労働関係法八条に定める労使協議の結果によつて決定される。月給制職員の賃金体系は年功序列的色彩が強いのに対し、日給制職員のそれは職務給的応能的体系であり、基礎となる一日の標準作業量は事業担当職員と作業員の折衝により決定される。その他の諸手当も支給され、休日・休暇・退職・安全衛生についても相当な制度が設けられ右作業員に対する処遇は決して不当なものでなく、その賃金水準は民間同種労働者のそれを上廻つている。また近時各種作業の機械化が進められたため、重筋肉労働は軽減され、その作業環境は好転して来ている。

同三3(一)ないし(三)の事実は認める。

同三3(四)の事実中全林野が昭和四五年四月三〇日にストライキを実施し、恵庭分会員の原告らが、原告ら主張の時間から右全林野統一行動の右ストライキに参加したこと、その後原告ら主張の調停が申立てられ次いで仲裁が行われ、仲裁裁定がなされたことは認めるが、その余は争う。

5 同四は争う。

二 本件争議行為

1 本件争議行為の目的

本件争議行為は、全林野が春闘統一行動の一環として昭和四五年度の賃上げを要求するために計画したスケジユール闘争であり、かつ安保廃棄要求という政治的目的も掲げた闘争である。全林野の要求は賃金の大幅引上げ以外はすべて昭和四五年三月中に妥結され、原告が請求原因において主張する同年三月までの経過は本件争議行為とは関係がない。

2 本件争議行為の規模

(一) 全林野は昭和四五年二月二日三日中央執行委員会を開き全林野の七〇年春闘方針案の大綱を決定し、同年二月二五日に、自主交渉の最大の山場を四月下旬におき二時間~半日のストライキを配置することなどの案を全職場の討論におろした。

(二) 全林野札幌地方本部(以下札幌地本という)は、同年三月二、三日第四五回札幌地本委員会を開き、前記四月下旬の自主交渉の山場に二~四時間のストライキを配置することを確認した。

(三) 全林野は、同月八日、九日第四八回中央委員会を開きさきに下部討論におろした前記1の案を含む春闘方針を決定した。

(四) 全林野は公共企業体労働組合協議会の構成員であるが、同年四月七日全国戦術会議において、四月三〇日および五月上旬の二波にわたるストライキについて、参加の範囲指導方法につき意思統一した。

(五) 札幌地本は同年四月一三日から二二日にわたりオルグを実施し、前項のストライキについて体制の確立をはかつた。

(六) 公労協は同月一八日に、四月三〇日に半日ストライキ、五月八日に全一日のストライキを行うことを決定。全林野は同月二〇日に右の決定にそつて、四月三〇日の拠点部分ストライキ等の体制強化指令を出した。

(七) 札幌地本は同月二四日戦術会議を開き四月三〇日のストライキの具体的行動の決定および拠点分会は札幌地本の命令により定まるなどの決定を行なつた。

(八) 札幌地本は同月二七日に拠点分会を恵庭営林署分会に指定した。全林野は四月二八日全地本に対して拠点部分に対しストライキに突入する指令をするよう指令し、札幌地本も右指令を受け、恵庭分会に対しスト突入指令を出し本件ストライキが行なわれた。

(九) 右のとおり本件争議行為は全国的規模において計画的に行なわれたものである。

3 本件争議の態様、原告らの果した役割

(一) 第一12ないし18、第二の1ないし49(29を除く)原告(以下二の原告らという)はいずれも恵庭分会組合員であつて、内第二26ないし49の原告は恵庭事業所前苗畑構内(以下苗畑という)において同年四月三〇日午前七時三〇分頃から二時間職場集会に参加し各職務を放棄した。二の原告らのうちその余の原告らは千歳製品事業所の二六九林班の山元工場(以下山元工場という)において右同日同時刻頃から、第一13、16、第二1、3、5、8、10、11、13ないし17、22の原告は二時間五〇分、第二25の原告は二時間二七分、第二27の原告は二時間二〇分、第一14、第二24の原告は二時間、第二21の原告は一時間五七分、第一15、18、第二2、4、6、7、9、12、18、19、20、23の原告は一時間五〇分職場集会に参加し、各職務を放棄した。

尚第一12の原告は恵庭分会委員長であつて四月三〇日本件争議行為に参加して「スト決行中」の立看板を持ち行進し、職場集会では分会委員長として最後まで頑張りたい旨挨拶をし、一時間二七分間職務放棄をした。

(二) 第一1ないし11の原告(以下一の原告らという)の本件争議行為当時の組合における役職は別紙第三目録に記載のとおりであり、次のとおり前記各職務放棄を企画しまた自ら指導した。すなわち、右1ないし11の原告は前項(二)(以下前項を略す)の委員会に出席して同記載の提案、意思統一を行ない、1、3の原告は(三)の委員会に出席して同記載の企画謀議に参画し、1の原告は(四)の会議に出席して方針決定に関与し、1ないし11の原告は(七)の会議に出席して同記載の企画謀議に参画し、1の原告は(八)の拠点分会指定およびスト突入指令をし、2の原告は同月二七日、3、4、9の原告は同月二八日それぞれ恵庭分会に赴き、2、9の原告は山元工場において、3、4の原告は苗畑において、早朝集会、職場オルグ、スト参加者予定者打合せ会を通じストライキ体制を確立し、本件争議当日はストライキ集会を自ら指導して争議行為を実施させた。

4 本件争議行為の影響

国有林野事業は国土の保全、水源の涵養など森林のもつ公益的機能、重要な林産物の持続的供給をはかるなどの経済的機能を最大限に発揮させながら公共の福祉を増進させることを目的としており、事業の適切な管理運営が強く求められている。したがつてすべての事業計画は長期かつ詳細綿密に相互に密接な関連をもたせながら末端における最小単位の業務についてまで盛り込んで作成されており、またこれらの業務には季節的自然的な制約が多いから、一時的または一部の業務阻害でも連鎖的に他に波及し、全体的な業務の遂行に回復し難い損害をもたらすのである。本件職場放棄により恵庭営林署における国有林野事業の正常な業務は阻害され、全体的業務の遂行に損害を与えた。

三 本件懲戒処分

1 一の原告らが前記職務放棄を企画して実施せしめ、あるいは、自ら指導した行為は、公労法第一七条一項に該当し、かつ国公法第九九条に違反するので、被告営林局長は、国公法第八二条一号、三号により原告ら主張の懲戒処分をした。

2 二の原告らが職場放棄をした行為は、公労法第一七条一項国公法第九六条一項第九八条一項、第九九条および第一〇一条一項にそれぞれ違反するので、被告営林局長は第一の12ないし18の原告に対し、被告営林署長は第二の1ないし49の原告に対し、国公法第八二条各号により原告ら主張の各懲戒処分をした。

四 本件懲戒処分の合憲性、適法性

1 公労法第一七条一項は憲法第二八条に違反しない。

(一) 労働基本権は経済的基本権であつて、特に公務員にとつては、最低限の生活を営むに足る労働条件確保を求める一般勤労者の場合と異なり生活水準の向上をはかるための権利である。また労働基本権は一手段に過ぎない。国家は立法により国民全体の利益との調和にたつて基本権の具体的内容範囲をきめるのであつて、争議権を背景にした団体交渉が妥当でなく他に代るべき手段があるときは右基本権を制限することも許され違憲ではない。公共企業体職員を含む公務員の場合には、次に述べる公務員の地位の特殊性、職務内容の公共性、勤務条件決定等の特殊性がある一方適切な代償措置が定められているところからその基本権就中争議権を一律に制限することも許されるというべきである。

(二) 公務員の地位の特殊性

公務員は、国、公共団体を構成するものとして公法上の特別の勤務関係に服する。そうしてその勤務関係は一般の民間労働者と異なり使用者と経済的利害の対立関係になく、窮極的な使用者というべき国民による信託と公務員の国民全体に対する奉仕という関係があるのみである。

(三) 公務員の職務の公共性

公務員は国民全体の利益のために勤務し、その職務において職責を果たすことが必要不可欠であつて、その停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか又はそのおそれがある。

国有林野事業についてこれをみると、わが国の林野面積は約二・五二八ヘクタールで国土面積の約六八パーセントを占め、そのうち林野庁所管の林野は約七四八ヘクタールでわが国林野面積の約三一パーセントに及んでいる。また国有林野の森林総蓄積はわが国森林総蓄積の約四四パーセントを占めている。右の通り国有林野の占める比重は大きく、更に国有林野は全国に分布し、その過半数はせき梁地帯に位置して国土保全、水源かん養の重要な役割を果たすと共にその自然景観により国民の保健休養に不可欠の機能を果たし、また国内需要の三〇パーセントにのぼる林産物の安定供給をし、農山林の福祉の向上にも役立つている。これに対し、民有林野は多く里山にあり過半数が零細小規模の個人所有である。

以上の実情からみると、国有林野事業は、国土保全等国民生活の基盤を維持し、国民経済と福祉向上を目的とする国の基本的施策の推進をその事業内容に本質的に包含している点において民有林野と比較し得ない重要性を有し、国民生活全体の利益と密接な関連性を持つものである。

(四) 公務員の勤務条件決定過程の特殊性

国家公務員の勤務条件は法律および予算によつて決定され、政府は勤務条件の最終的決定権を有せず、労使関係における最終的当事者としての充分な資格をもたない。このような立場による政府に対し、争議行為による圧力を加えることは政府の処理し得ない事項についてその行為を要求することになり、国会において民主的に行われるべき公務員の勤務条件の決定過程を歪曲するおそれもある。

国有林野事業においても予算は国会の承認を要し、支出には使途制限があり、決算は会計検査院による検査や国会への報告を要し、利益金の処分や留保制限がある。また右職員について団体交渉労働協約締結権が認められているが、法令給与総額制による制約があり、労使の自主決定権は制限されている。

(五) 代償措置

法は労働基本権の制約に見合う代償措置として勤務条件について詳細な規定を置くと共に人事院を設け、人事院は公務員の勤務条件について、国会及び内閣に対し勧告又は報告を義務づけられている。また公務員は人事院に対し、勤務条件に関して行政措置請求をし、あるいは不利益処分について審査請求をすることができる。国有林野事業においては公共企業体労働委員会(公労委という)によるあつせん、調停、仲裁の制度が争議行為禁止の代償措置として設けられ、当局は右制度の発足以来賃金関係の仲裁裁定についてはこれを完全に実施している。

2 国有林野労働者のした本件争議行為は公労法第一七条一項の禁ずる争議行為に該たる。

前項に述べた理由から国有林野労働者の争議行為が公労法第一七条一項の禁ずる争議行為にあたることは明らかであり、また本件争議行為は国民生活に与える影響が大きいうえ前記のように政治目的をもつたいわゆるスケジユール闘争であつて違法であり、同法条の禁ずる争議行為に該たることは明らかである。

3 本件争議に国公法第八二条を適用するのは適法である。

(一) 公労法第一七条は窮極的には国民生活全体の利益を保護するものであるが、直接的には正常な業務運営のための業務秩序確保を目的とする。また国公法第八二条も国政の適正円滑な運用を図り国民全体の福祉ないし公共の利益を増進擁護することを目的とするものであつて、両法条の保護法益は表裏一体の関係にある。

(二) 私企業の場合でも争議行為が違法なものであれば企業秩序違反の行為として当該労務者はその責を負わなければならないのであつて、公務員の場合は争議行為が禁止されているのであるからその争議行為について正当性の有無を問う余地がなく、争議行為をした公務員は民事上の責任を負うべきである。

(三) 殊に公務員関係における秩序は地位の特殊性から様々な服務義務を公務員に課しているのであつて、公務員の争議行為は、単なる国の業務維持職務秩序違反にとどまらず公務員としての服務義務に違反する側面をもつ。

(四) なお公労法第一八条は第一八条違反の争議行為者について国公法などの身分保障に関する規定に拘らず解雇しても右規定に違反しないことを意味するにとどまり、懲戒権者は国公法第八二条所定の各種懲戒処分を選択して処分することができるというべきである。

4 本件懲戒処分は相当で、不当労働行為に該たらず、処分権の濫用又は裁量権を逸脱してなされたものではない。

(一) 本件懲戒処分は本件違法な争議行為について懲戒権者が、その態様、態度、懲戒処分の効果とその態様その他諸般の事情を総合勘案して懲戒処分のうちいずれを選ぶかを慎重かつ公正に判断し決定してしたものであつて、不当労働行為意思に基づき恣意的にしたものではない。尚その後の争議行為についての処分状況は懲戒権者が裁量に当つて考慮し得る事項でない。

(二) 原告の大部分の者に対してなされた本件戒告処分は国公法上の懲戒処分として最も程度の軽いもので経済的に不利益を及ぼさず、右原告らがこの程度の処分を受けることは当然であるというべきである。

(被告らの主張に対する原告の認否)

1 被告主張二(本件争議行為)1の事実中、本件争議行為は全林野が賃上げを要求するために計画したものであることは認めるが、その余は争う。

2 同二2は認める。但し当局の態度によつてはストライキをすることとしたものである。

3 同二4は争う。

第三証拠<省略>

理由

一 原告由比輝雄が被告営林局長主張の頃退職した事実は、同原告において明らかに争わず、また弁論の全趣旨によつても争つていると認められないからこれを自白したものとみなす。しかしながら、同原告は本件懲戒処分がなければ有するはずであつた差額分の給料請求権等について救済を求めるためその前提として右懲戒処分の取消を求める利益があるというべきである。

二 請求原因一1、2の事実(当事者)は、第一17、第二1、3、5、8、10、13ないし17、22の原告についての作業場所、第一14、17の原告についての作業内容が右原告ら主張のとおりであるかどうかの点を除き当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると右作業場所、作業内容は被告ら主張のとおりであるものと認められる。

三 二の原告らが昭和四五年四月三〇日始業開始時の午前七時三〇分から各職務を放棄して職場大会に参加したことは当事者間に争いがなく、右態様、職務放棄の時間が被告主張二3(一)のとおりであること、一の原告らが被告ら主張の組合役員の地位にあり、前記職務放棄に際し、被告ら主張二3(二)の役割を果たしたことは、同原告らにおいて明らかに争わず、弁論の全趣旨によつても争つていると認められないからこれを自白したものとみなす。

次に請求原因二1の事実(本件懲戒処分の存在)、右各処分の理由は、二の原告らについては、同原告らのした前記職務放棄行為(以下本件争議行為という)は公労法第一七条一項に該たり、国公法第九六条、第九八条一項、第九九条、第一〇一条に違反する、また一の原告らについては、同原告らの前記所為は本件争議行為を企画して実施せしめあるいは指導したものでこの行為は公労法第一七条一項に該たり、国公法第九九条に違反するというものであること、以上の事実もまた各当事者間に争いがない。

四 本件懲戒処分の適否についての請求原因四1ないし4の主張に対する判断はしばらくおき、先づ本件懲戒処分が処分権の濫用にあたるかどうかについて以下判断する。

五1(本件争議行為の背景)

(一) 請求原因三1(一)の事実(国有林野事業に従事する作業員の制度上の地位・構成)同三1(二)、(三)の事実中常用、定期作業員の多くの雇用が事実上長期間続いているが制度上は臨時雇用であること、定期作業員については雇用、失業が反覆され、右作業員は失業期間中失業者の退職者名義で手当を受けていること、常用、定期作業員の賃金は定額日給や出来高給として支払われていること、右作業員の諸手当、年休等は定員内職員のそれらと差があること、は当事者間に争いがない。

右争いがない事実に、成立に争いがない甲一七ないし一九号証、二一、二四、二七、二八、三一、三七、三八号証、乙二、三七号証、四一号証の一、二、五二、五三号証、五四号証の一、二、五九号証の一、二、証人木村武、同松浦信男、同赤坂信康の各証言、原告東井富男、同鰐田義満、同広田信行、同松尾清澄各本人尋問の結果(いずれも後記認定に反する部分を除く)によると、次の事実が認められる。

(二) 国有林野事業の職員は、管理部門(全職員の二五パーセント)のほか育林、製品生産(以上いずれも各二五パーセント)、種苗(九パーセント)、林道(七パーセント)、治山(二パーセント)の各事業部門に分れて勤務しているが、事業部門において管理普通職が二〇パーセント程度を占めるほかは、定員外職員がその大多数を占め(育林は全職員の七九・六五パーセント、製品生産五七・一四パーセント、種苗七七・三七パーセント、林道七七・三七パーセント、治山五五・三三パーセント――昭和四六年度の統計であるが同四五年度において割合はほとんど変らない)、常用、定期作業員がその中の多数であること、これら作業員の多くは伐木造材手、集材手、機械運転手などであつて、定員内技能職職員と同一態様の仕事をしており、常用、定期作業員(定員外職員)は数、内容からみて国有林事業における事業部門の基幹要員であるといえること、

ところで、国有林は背梁山脈沿いの比較的奥地に存在し(標高六〇〇米以上四八パーセント、民有林は二二パーセント、傾斜度国有林一五~三〇度三九パーセント、三〇度以上三五パーセント、民有林は前者四三パーセント、後者二六パーセント)、冬期間は積雪、寒気の厳しい箇処が多いこと、殊に伐木、集材等の作業に従事する作業員は奥の作業現場までチエンソーなどの重い作業用具を運んでこれらの作業(振動作業等)をすること、また山泊の必要がある箇処もあるなど、国有林野事業に従事する作業員の作業環境はかなり厳しいこと、

次に常用、定期作業員の賃金については、一般職の職員の給与に関する法律の適用は受けず、法令上の制限はあるが、協約、団体、交渉により決定され前記のとおり日給制(職種毎に格付賃金がきめられる)と出来高給制(作業別の単位作業あたりの賃金にその者の出来高量をかけてきめる)の併用で支払われているところ、常用、定期作業員の基準内平均賃金は定員内技能職員(月給制)の賃金に比べて低く(昭和四四年度で単純平均すると、常用作業員は月給制技能職職員の七五・四パーセント、定期作業員はその七一・三パーセント、平均すると月給制職員の賃金の七二・六パーセント)、右日給制作業員については定期昇給がないため右賃金の較差は年令が高くなるにつれて更に開くこと、もつともこれらの日給制作業員の賃金水準は、同種企業(道有林、民有林)の作業員の賃金水準を上廻るが、全産業の賃金水準と比較すると、その平均三〇―九九人規模の賃金水準をやや下廻る程度であつたこと、作業員が世帯主となつている世帯で生活扶助を受けているものもあつたこと(一〇確認で確認されている)。

(三) 国有林野事業における常用、定期作業員(定員外職員)の制度は、林野事業には季節的作業が多く、作業員のほとんどが地元で臨時採用されていたことから生み出されたものであつたが、その仕事内容は定員内技能職職員と同一態様のものであり、次第に勤務年数が長くなり、かつ専業的になつて来たため従前の意味はかなり失われたこと、しかも他の公共企業体では定員外職員の定員化が順調に行なわれているのに対し、国有林野事業では定員外職員は基幹要員的な存在であるのに前記処遇状態であつたため、これら定員外職員の雇用安定、これら職員を中心とする国有林野事業作業員の処遇改善の要求が強くなされるに至つたこと、

(四) 全林野はかねてから林野庁に対し、これら定員外職員の雇用安定と定員内職員との較差是正などを含めた国有林作業員の処遇改善を求め、林野庁も右交渉に応じ団体交渉を重ねたこと、そうして両者間に昭和四一年に原告ら主張内容の通称三・二五確認、六・三〇確認がなされ、基幹要員であるこれら定員外職員の臨時雇用制度を抜本的にあらためるという基本姿勢が示されたこと、その後両者間に同四二年五月二四日、定員外(日給制)職員の賃金について、次の事項を含むいわゆる一〇確認がなされたこと、

(1) 日給制賃金は他産業の五~二九人規模の賃金と同程度となつていること、単純平均では必ずしも平均賃金構成の諸条件の差異を示していない面もあるが、好ましいことではないので、他産業五〇〇人以上の規模の賃金水準を努力目標として改善して行きたいこと。

(2) また日給制職員と技能職月給制職員との賃金水準の比較は難しいが、同種労働の職員の賃金水準が開くのは好ましくないので較差を縮めて行かなければならないと考えていること。

(3) 物価指数の手法(組合資料)によつて算出すると基準内賃金は下つていること、生計費調査(当局資料)によつて総理府調査の都市労働者世帯と日給制職員世帯とを比較すると、消費支出額からみて後者が低く、これは賃金改善をしなければならない要因と認められること。

(4) 春闘においてその定期昇給部分は賃上げでないが、属人的には定期昇給を含めた手取りがあることになるので、日給制職員の場合この点を勘案すべきこと。

(5) 生活扶助を受けている世帯があり、低額職種に多いことから右職種について底上げを配慮することを考えていること。

(五) 国有林野に従事する作業員の処遇改善については以後徐々に進められ、原告主張の改善はなされたものの各種の制約もあり常用化、定員化の実現は容易でなかつたこと、

2(本件争議行為の目的・直接の経緯)

請求原因三3(一)ないし(三)の事実、被告主張(二)の事実は当事者間に争いがなく、右争いがない事実、前掲証拠によると、次の事実が認められ右認定を左右し得る証拠はない。

(一) 全林野は昭和四五年のいわゆる春闘において、大幅賃上げと賃金体系の改訂(日給制職員の賃金格差の解消)を重点目標にし、交渉を本格化して山場を作るため当局の態度によつてはストライキで抗議することを決め、被告ら主張の経過で争議行為を企画準備する一方組合員の意見を集約し、同年三月一四日に林野庁当局に対し月給制職員の賃金を月額一万三〇〇〇円、日給制職員の賃金を日額一一〇〇円上げるよう要求し、両者はこれらの事項を重点対象として一二回にわたり団体交渉をもつたこと、

林野庁は、賃上げの必要は認めながら、他の公共企業体の交渉を見守り有額回答をせずに全林野との交渉を重ねていたが、同年四月二七日に全林野に対し、経営実情を考慮し、かつ事業の合理化および経費節減をすべきことを前提として月給制職員について平均基準内賃金水準月額四七七七円、日給制職員について日額二〇八円上げる旨昨年の仲裁裁定額と同一の回答をしたこと、

(二) 当時全国消費者物価指数は同四五年一月の対前年比七・八パーセント、同年三月の対前年比八・三パーセント、農村消費者物価指数は同四五年一月の対前年比五・六パーセント各上昇しており、また同年四月二七日当時民間企業の賃上げ状況は私鉄交渉で七七〇〇円賃上げの回答をしていたほか、かなりのところで大幅賃上げの妥結ないし回答(一万円を越える組合一〇四二組合)がされていたこと、尚国有林野事業は昭和二二年から同四四年までは災害時を除いては黒字であり、林政協力事業費として利益金処分をしていた時期もあつたが、同四五年度以降は赤字になつたこと、

(三) 全林野は、林野庁の回答は民間企業の賃上げ状況も前記一〇確認も反映していないとして林野庁に対し再検討を求めると共に翌二八日、状勢が変らなければ同月三〇日ストライキに突入することをきめ札幌地本を通じ恵庭分会など拠点分会に本件争議行為突入への指令を出したこと、

(尚成立に争いのない乙第二七ないし三六号証によると、全林野は本件争議行為に際し、右経済的要求事項とあわせて安保廃棄という政治的要求事項も掲げていることが認められるけれども、右要求事項が本件争議行為の主目的でなく、争議行為の機会を利用して政治的意思ないし要求を表明しているにとどまるものと認められる。したがつて、本件争議行為がいわゆる政治ストであるとは認め難い。また前認定の経過に照らすと、全林野においてあらかじめ予定した争議計画を固執し、必要がない場合でもこれを実行するものであつたことは証拠上認められない)。

3(本件争議行為の規模、態様、影響)

前掲証拠、証人松浦信男の証言により成立を認める乙四五、四六号証、四七号証の一ないし八、成立に争いのない乙八、一三、三七、三九、四〇、六〇、六一、七一、七二号証、原告熊田キミ本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(一) 全林野は同年四月三〇日午前七時三〇分から二の原告らを含む一四分会の組合員を本件争議行為に突入させたこと、林野庁は、同月二八日長官名で、また被告署長名で、同職員に対し争議行為をせぬよう警告すると共に、当日右署長は右原告らに職場大会を解散して職場につくよう命令を出したが、右原告らはこれに従わなかつたこと、

一方林野庁は同日午前七時になり全林野に対し、原告ら主張のとおり、スト中止を条件として1昨年を上廻つた民間の賃上げ動向を考慮する考えであり、調停においてもその考えで解決されるよう対処する2日給制賃金についても一〇確認を尊重し、かつ前述の方向に対処して誠意をもつて努力する旨の第二次回答をしたこと、全林野は時間的余裕もないまま本件争議行為に入つたが、それと併行して右回答を検討した結果、同日午前九時六分その中止を決定し、各争議中の分会に各地本を経て通知をしたこと、

二の原告らのうち第二26~28、30~49の原告ら二五名は恵庭苗畑事業所に勤務するいずれも女子定期作業員(育苗手)で、その頃は原告ら主張の苗畑作業に従事していたが、恵庭分会委員長第一12原告と共に苗畑構内の職場大会に参加したこと、その余の二の原告ら三一名は千歳製品生産事務所に勤務する常用作業員二五名、定員内職員(運転手)六名で、その頃は原告ら主張の伐木集材、丸太生産等の作業に従事していたが、山元工場の職場大会に参加したこと、また一の原告らは前認定のとおり全林野の指令に基づき、本件争議行為に関与したが、当日は専従役員を除き、それぞれ勤務していたこと、

(二) 二の原告らの職務放棄、一の原告らの企画指導はいずれも全林野の指令に基づき行なわれたものであるところ、右放棄は単純な職務不提供の形で行なわれ、その間暴力沙汰はなく、また就労する他の職員に対して妨害をしなかつたこと、本件職務放棄の時間は平均二時間五分程度であり、右原告らは前記中止命令を受けた後間もなく復帰し作業にかかつたのであつて、その後各作業計画の変更もなく、右時間程度の不就労による影響は皆無とはいえないまでも軽微であること(育苗作業は林業の中では時期的制約のある作業ではあるが、右適期は農業ほど短かくない、また国有林野事業の作業員は日曜、および雨天には就労しない)、

(三) 本件争議行為当時、林野庁所管の国有林は、国土面積の六八パーセントを占める森林面積の三一パーセント(北海道においては森林面積の五七・六パーセント)を占め、同庁所管の森林総蓄積量は我が国森林資源の四五パーセントを占めていること、国有林野事業は右森林を管理し、国土保全、水資源の涵養、国民の保健休養、その他大気浄化、自然保護などの公益的機能をになう一方木材を中心とする林産物の需給および価格安定などの経済的機能をあわせもち、独立採算制をとり、両機能を調和させながら長期的な計画のもとに作業をし、事業を発展させていること、しかしながら、右事業は各分野とも具体的工事のかなりの部分を民間事業に請負わせていること、原告らの多くは右民間企業の労務者同様末端の仕事をしているものであること、

(四) 全林野は翌五月一日調停を申請したが不調になり、仲裁に移行、同月一九日月給制賃金六八二六円、日給制賃金二九七円増額の仲裁裁定がされたこと、右裁定において、日給制作業員賃金と月給制職員との較差については、職務内容、雇用形態に差があり、賃金体系も異なるため必ずしも同一でなければならないとは考えないが、当面現在の較差を縮少する方向で措置することが妥当であるとされ、尚林野庁当局も数年来努力しているが、尚相当の開きがあり右開きを縮少したい考えであることを右仲裁段階でも明らかにしていること、

六 以上認定の事実によつて認められる、本件争議行為の目的(前認定の国有林野事業に従事する職員殊に作業員に対する処遇を背景にして全林野が林野庁に対し、右職員の賃金引上げ、日給制職員の月給制職員との賃金較差の是正、またはそれらについての努力をすることを求めることを目的としたものであること)本件争議に至るまでの経緯、交渉経過、争議行為の態様(午前約二時間の単純な職務不提供で暴力沙汰、他の職員に対する妨害をしていないこと)争議行為の影響が軽微であること、国有林野事業は公共性のある事業ではあるが、かなりの部分を民間事業に肩代りをし、原告らは公務員であるが、その多くは賃金体系についても別個の扱いを受けている、右民間事業の作業員同様の末端の従業員であること、更に原告らがこれまで処分を受けたことは証拠上認められないことなど、これら諸般の事情を考慮すると、本件争議の規模を考慮に入れても尚本件各懲戒処分は酷に過ぎ、著しく妥当を欠くものというべきで、処分権の濫用になるものと認める。

七 よつて、その余の事項について判断するまでもなく本件懲戒処分は違法であり、これの取消を求める本訴各請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

第一目録

番号

住所

氏名

処分欄

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

札幌市豊平区平岸二条九丁目

札幌市琴似八軒八条西五丁目

札幌市厚別町東区七二三

札幌市厚別町東区七八三

札幌市旭ケ丘一八九〇番地

札幌市南九条西二三丁目

札幌市白石町平和通九丁目北九四

札幌市厚別町東区七二三

芦別市北一条東一丁目五番地

札幌市厚別町東区七二三

白老郡白老町字白老

恵庭市漁町一七五

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

千歳市本町四丁目

恵庭市緑町六一

東井富男

石川桝雄

松田隆夫

畑瀬利一

安藤昭夫

福田光雄

小玉敏雄

布田賢一

由比輝雄

渡部東司

佐々木栄一

鰐田義満

井藁茂

水島正幸

山口晋

井上光久

佐藤俊男

斉藤与志美

減給五ケ月

減給五ケ月

減給五ケ月

減給二ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

減給二ケ月

減給一ケ月

減給一ケ月

戒告

第二目録

番号

住所

氏名

処分欄

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

恵庭市緑町一〇五

千歳市末広町東区二

恵庭市大町二三二

恵庭市漁町二六五

恵庭市泉町二八

千歳市朝日町八丁目

恵庭市文京町三二

千歳市朝日町八丁目

千歳市蘭越

千歳市朝日町八丁目

千歳市末広町東区二丁目

千歳市蘭越一区

恵庭市有明町一二二

恵庭市有明町一二九

恵庭市文京町四

佐藤義雄

赤川幸一郎

広田信行

林進一

天野芳光

田辺三郎

佐藤盛次

牧野友昭

小山田直美

高杉俊一

木村京二

小田忠男

加藤栄松

茨木新一

熊谷徳一

戒告

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

41

42

恵庭市文京町四

恵庭市末広町一

恵庭市桜町

千歳市朝日町八丁目

千歳市蘭越

恵庭市戸磯

恵庭市末広町四三

恵庭市緑町一〇三

恵庭市新町一九

恵庭市相生町一九九

恵庭市盤尻

恵庭市相生町二〇六

恵庭市有明町九三

恵庭市有明町一三一

恵庭市有明町一〇八

恵庭市有明町一一四

恵庭市相生町二〇六

恵庭市有明町八五

恵庭市盤尻

恵庭市大町

恵庭市住吉町一二七

恵庭市盤尻

恵庭市盤尻

恵庭市住吉町六五

恵庭市桜町二一

恵庭市大町一二

三浦清

古川四郎

河野和義

畑山亨

小畠常男

松尾清澄

今田香末

鳴海市太郎

井上正生

細谷健次郎

渡辺トメ子

山名シウ子

村上ミエ子

藤田ハナ

須藤トセ子

作本シマノ

熊野キミ

野元光子

伊東テル

林すげ

佐々木トシ子

鈴木タケ子

鈴木ミヨ

向川喜代子

藤平八重子

山平ミサヲ

戒告

43

44

45

46

47

48

49

恵庭市盤尻

恵庭市牧場四二五の一

恵庭市末広町一一六

恵庭市文京町六三

恵庭市盤尻五二

恵庭市盤尻

恵庭市盤尻

中川国子

大浅幸江

志津節子

早坂ナミ

中村千代

佐藤千栄子

小林千佐子

戒告

以上

第三目録

原告第一目録番号  処分当時の組合役職

1         地本 委員長

2         〃  副委員長

3         〃  書記長

4         〃  特別執行委員

5         〃  会計長

6~8、10、11 〃  執行委員

9         〃  書記次長

12        分会 委員長

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